Brand New Song



 引き出しの奥に輪ゴムをかけたハガキの束をみつけた。何気なく手にとった雲水の顔に穏やかな微笑が浮かぶ。たどたどしい文字と不格好な絵。小学生の頃に友人からもらった年賀状の数々である。
「まだ残ってたのか……」
 もともと手紙を捨てるといったことに抵抗を感じる性分とはいえ、己の物持ちの良さにはいささか呆れた。身体を反転させて未だ使い続けている学習机に腰でよりかかり、輪ゴムを外して一枚ずつめくっていく。いまでもたまに交流のある友人もいれば、もう顔も思い出せない名前もあった。ちゃんと年度順に並んでいるので人間関係の推移がわかって面白い。小学校では毎年クラス替えがあり、その度に友人が一新される。
 しばらく懐古に浸っていたが、やがて我に返って紙束をとりあえず机に置き、作業を再開した。ハガキを読むのはいつでもできる。大掃除の途中なのだ。とはいえ普段は寮で暮らしているのだから実家の自室などそう汚れてはいないし、雲水は弟と違って常日頃から整理整頓を心がけていた。……そういえば阿含の部屋はどうなっているのだろうか。冬休みに入って共に帰省してはいたが、母親が今日は一家総出で大掃除をすると宣言したとたん弟は当然のように外出してしまった。隣の部屋のドアをあける。
「……」
 この数日でなぜこうも散らかせるのかと頭が痛くなった。尻のポケットから携帯をだして短縮0番にかける。
『なんだよ』
 嫌になるほど聞き慣れた声の背後からはやはり耳慣れたざわめきが滲んだ。
「おまえの部屋も掃除していいか」
『やってくれんの? ラッキー』
 まったく気楽で羨ましい限りである。
「触ったらマズイところは?」
『べつにねえよ』
「捨てたらマズイものは?」
『それもねえな』
「……ちゃんと考えていってるんだろうな。プライバシーの問題だぞ」
『気にすんなって』
「本当だな」
『オニイチャンに見られて困るもんなんてねえの、おれは。んじゃ頼むわ』
「ああ」
 通話は阿含から一方的にきられた。大晦日と元旦には帰宅するのか確認したかったのだが、かけなおす気力はない。全面的な許可を頂戴したからには徹底的に片づけるしかないだろう。雲水は自室から掃除機と濡れた雑巾と45リットルの指定ゴミ袋をもってきて阿含の部屋に足を踏みいれ、必要以上に音高く扉をしめる。
「文句いうなよ」
 ふと、弟は子供の頃の年賀状などとうの昔に処分してしまったのだろうかと気になった。

「そんなん当選番号が判明したら捨てちまうに決まってんじゃん」
 一年もとっておかねえよ、と阿含は事も無げにいう。中学になって以降は年賀状など出していないようだが、出さなくてもそれなりの枚数をもらっているらしい。コタツのうえに広げられた5年以上前の年賀状を指で摘みあげ、つまらなそうな顔をする。
「とっといてどうすんの、コレ」
「どうするってものでもないだろう、アルバムと同じだ。たぶん翌年に出し忘れないよう捨てずにおいたんだと思うが」
「お返事は必ずシマスって? 虚礼だなぁ」
「礼儀や挨拶はある程度そういうもんだろう。これも社会生活を営むうえでは必要だぞ」
「あ゛ー……そういうのはてめえに任せる」
 雲水は蜜柑をむいて口に入れた。阿含は先ほど母親が用意してくれた甘酒を飲んで眉をしかめた。つけっぱなしのTVの音を押しつぶすように除夜の鐘が響いている。正月といえば神社で初詣だと思うのだが、熱心な信徒は大晦日の夜に菩提寺も参るらしい。父親は鐘をつき、母親は参拝客に甘酒をふるまっている。阿含が兄とふたりきりのときにはサングラスを外すようになったのは、よく考えれば最近のことかもしれない。
 雪が降っているわけでもないのに妙に静かな夜だと感じた。ただ時間だけが過ぎていく。
「なに、ぼーっとしてんだよ」
 コタツの中で足を軽く蹴られた。
「あぁうん、終わったんだなあと思って」
「クリスマスボウルぼけか」
「そう」
「おれら1年なんだからまたあるだろ」
「もちろん来年もがんばろう。その前に春大会もあるし」
 雲水は瞳を閉じた。試合の歓声がいともたやすく甦ってくる。
「おい」
「……うん?」
 目を瞑ったまま応えたら今度はあぐらをかいた膝を撫でられた。直角に位置して座る阿含を見やる。
「おれといるときはおれのことだけ考えてろ」
 冗談でいっているわけではないらしい。雲水は小さく笑った。弟はふて腐れて横を向いた。
 こういう恋人同士のような会話にはまだ少し居心地の悪さを感じる。きっと永遠にこのままなのだろうとも思う。今年はふたりの関係が大きく変わった年だった。ついに一線を越えてしまった。後悔はしていないが、なんだか不思議な感じがする。いつかはこうなる予感がしていた、けれども、いつのまにその下地ができたのか……改めて問われても、この片割れのどこがそんなに好きなのか明確には答えられない。むしろ欠点ばかりが次々と脳裏をよぎる。客観的にみると人道に反した面が多くて本当にひどい男だ。もちろんつきあいが長いだけ良いところも知っているつもりだが、それも兄弟限定の優しさであって他人に向けられることはない思いやりだったりする。要するに自分を好いてくれるから好きなのだろうか。人を人とも思わずだれにも心をひらかない阿含に特別扱いされるのは、純粋に心地よいだけでなく、いらぬ優越感までをも刺激される。
 雲水は額から瞼にかけて手のひらで覆った。器の小さい奴だと己を卑下するのは簡単だ。それよりも自分が弟になにを与えられるのか考えるべきだろう。
 阿含が一枚の年賀状をひらひらと翳した。
「こいつ憶えてる?」
 神経質そうな右上がりの字で雲水の名前が書いてある。差出人の名は吉川。たしか小学4年生のときに同じクラスだった少年だと思い、年度を確認すると、やはり間違いなかった。
「うーん、眼鏡をかけていたような気がするが……それくらいだな。おまえも知ってるのか」
「3年のとき一緒だった」
 いきなり阿含の指が古い年賀状をまっぷたつに引き裂いた。
「……阿含」
「嫌いなんだよ」
 紙片はさらに細切れにされ、雲水が蜜柑の皮を捨てるために寄せていたゴミ箱へと落とされる。
「大人げない」
 雲水は深く溜息をついた。本当に、どうしてこんなのを愛しているのだろう。
「オニイチャンはさあ……」
「その呼び方やめろ」
 阿含は両手を下におろして顎をコタツの天板にのせた。
「オニイチャンは、ひとりで生まれたかったって思ったことあるだろ?」
 雲水は目と眉のあいだを広くして弟に視線を落とす。なにを意図しての質問かよくわからない。
「そんなことはない、と思う」
 阿含は顔をTVに固定したまま言葉を続ける。
「んじゃあ、天才の弟に成り変わりたいと思ったことは?」
「……それはあるかもな。だからなんだ?」
「べっつにぃ。ただ、おれのことどう思ってたのかなあって」
 過去形だった。弟が昔のことを気にかけるとは珍しい。例によって気怠そうな態度だが、どうやら真面目にきいているようなので、雲水も真面目に考える。
 幼い頃は単純に好きだった。共に過ごす時間が多かったし自分との境界も曖昧だった。小学生くらいになると性格の違いがわかってきて、それでも変わらず仲が良かったと思う。中学に入ってから、はっきりと才能の格差を感じた。それはもちろんショックで悔しかったけれども、弟を嫌いにはなれなかった。ただその頃から阿含が外に行動範囲を広げて雲水とは距離を置くようになったのを、寂しがるより先にありがたく感じたのも事実だ。あまり愉快でない感情に囚われるのは苦しくて耐え難く……自分のことしか考えていなかった。しばらくその状態が続く。その泥沼から抜けだせたのはいつだったろう。きっかけは? 時間が解決してくれた面もあるし、高校で神龍寺ナーガという強豪チームに入ってアメフトに一層のめりこんだのも大きい。つまり別のことに夢中になって雲水の中での弟の占める割合が減少したということだろうか。否、アメフトと阿含は常に表裏一体をなしており、切り離して考えることはできないのだ。……やはりきっかけなど見当たらない。おそらく妬むのに疲れたのだろう。それより高校生になった時点ですでに阿含に対して普通の兄弟以上の感情を抱いていたように思う。その気持ちがいつどこからやってきたのか……どうも記憶から掬いだせない。中学1年のクリスマスに弟としたキスでは兄弟愛の延長しか感じなかったはずなのに。
 気がつくと、阿含に見つめられていた。上目遣いが妙に幼い。つい微笑みかけてしまう。手を伸ばして目の前でうねる弟のドレッドに指をくぐらせた。他の何物にも例えられない独特の感触がする。
「おまえのことは……いろいろ想ってた。人の心はうつろうものだからな」
「おれは絶対、変わんねーよ」
「……それは思い上がりだ。阿含」
 心身を蝕むあの苦痛が(完全に消えたわけではないけれど)いつまでも続かなかったように、いま互いを結ぶ狂おしい気持ちもやがて冷たくなってしまうかもしれない。その可能性はとても怖ろしく、かつ安らかでもあった。逃げ場が残されているのは良いことだ。どのみち未来はないのだし。
「ハッ、諸行無常ってヤツ?」
「そのとおり」
 鐘の音はまだやまない。父は本当に百八つ数えているのだろうか。別世界のように賑やかなTVの中で新年へのカウントダウンが始まった。阿含が髪を撫でる兄の手をにぎり、身体をおこす。
「雲水」
 どちらからともなく唇を寄せた。触れあった瞬間、そこから全身に波紋が伝わる。瞼を伏せて吐息を交わし象牙色の門をひらいて互いを迎えいれ、さらなる融合を求めた。どこまで深く絡めても決してひとつに溶けあえないのがひどくもどかしい。皮膚も肉も粘膜もふたりを隔てるすべてが邪魔だ。荒い息づかいと濡れた音だけが意識を支配する。阿含の睫毛が頬をくすぐり、瞬いているのがわかった。
 双子なのだから上下をつける必要はないのに、物心ついたときからずっと雲水は兄だった。責任を担うべきだとだれに強制されるでもなく感じていた。弟が過ちを犯そうとしているときは兄が止めなければならない、ましてや一緒になって道を踏みはずすなど論外である。だからこの罪は雲水が背負うものだ。
 TVから新年を祝う歓声がはじける。始まりと同じようにどちらからともなく唇をほどき、少しうつむいて額をぶつけあう。くすくすと笑いがもれた。単調な鐘の音は終わる気配がない。
「ごんごんごんごん、ムードぶち壊しだっつうの」
「明けましておめでとう、阿含」
「今年もよろしくな、雲水」
「おまえ近くでみると目つきの悪さが際だつなぁ」
「人のこといえねーだろが!」
「今年の抱負はなんだ?」
「……パス。雲水は?」
「クリスマスボウルに行く」
「つまんねえよ却下」
「つまらないとは聞き捨てならんな。どんなのなら満足するんだ」
「例えばぁ、48手をマスターするとか」
「それこそ却下だ、バカ」
「なんでだよ。充実した性生活って大事だぞ」
「他の部分を充実させてから考えろ! だいたいおまえは、」
「新年から説教かよ、マジうぜえ」
「自業自得だろ。胸に手をあててじっくり反省するんだな」
「……」
「おれの胸に手をあててどうする」
「基本かな〜と思って」
「……たしかにベタなボケだ」
 子供の頃のように互いの身体を無遠慮にべたべた触りまくる。セックスを前提としないスキンシップもまだできるのだと知って少なからず安心した。阿含の髪はなんど触ってもごわごわしていて愉快だ。一房つまんで引っぱってみる。雲水はずっと剃髪しているため自分の髪質というものを憶えていない。唐突に己の地肌から直接ドレッドが生えてくる光景を想像してしまい、弟の肩に顔を埋めてひたすら笑った。阿含はといえばお返しとばかりに雲水の頭をざりざり撫でまわして、やっぱり屈託なく笑っている。
 遠くで玄関の引き戸が開けられたようだ。廊下を歩くスリッパの足音が近づいてくる。雲水と阿含は何事もなかったかのように身体を離して元の姿勢に戻った。と同時にふすまがひらき、頬を赤く染めた母親の姿があらわれる。
「ああ寒い寒い寒い」
 コートを羽織ったままコタツに入りこんできた。雲水はもういつもの堅い表情を顔に貼りつけている。
「終わり?」
「ええ、もう来ないでしょう」
「ホントに手伝わなくてよかった?」
「どうせ顔見知りの檀家のおじさんおばさんが世間話をしにくるだけなのよ」
 いつのまにか除夜の鐘もきこえなくなっていた。父親は風呂場に直行したようだ。阿含は再びサングラスをかけ直し、人を小馬鹿にしたような形に口元を歪めてTVを眺めている。コタツの隅に追いやられた湯飲みを母親が手にとった。
「残ってるじゃない」
「んな甘ぇもん、飲んでられっか」
「甘酒なんだからしょうがないでしょ」
 まだ暖まっていないだろうに、母親は立ちあがって湯飲みをもったまま台所へと足を向ける。
「あんまり遅くならないうちに休みなさいね。コタツとヒーターを消してってね」
「母さんは?」
 母の細い指先は荒れていた。目尻に皺も目立ち始めている。かなり身綺麗にしているし動きもきびきびしているので年齢より若く魅力的にみえるほうだろう。料理が得意でよく働き、愚痴を零すのを嫌う性格だ。もちろん人間なのだから完璧ではないが、母親としては申し分ないと思われる。雲水が家事全般をそつなくこなせるのは彼女の教え方が上手だったおかげであり、とくにその点では感謝していた。
「もう寝るわよ、もちろんお風呂はもらうけど」
「わかった、おやすみなさい」
 両親を欺くのはじつに簡単である。雲水は自分が嘘をつけない人間だと考えていたが、必要に迫られたことがなかっただけで、自発的にそうするつもりになればいくらでも可能だったのだ。家族をよく気遣う母親にさえ見抜かれないのだから堂に入った態度をとっているのだろう。弟とあらかじめ示し合わせたことなど一度もないが、どう振る舞えばいいのかは教えられなくても理解しているし、眉ひとつ動かさずに実行できた。母の目を正面から覗いても平静でいられるほどだ。まるで似ていないと自他共に認める自分たちにも同じことができるのだと、いっそ感心した。
 また和室には双子だけがとり残され、相変わらずTVの声がやかましい。コタツの上にサングラスが静かに転がされる。
「次の正月も、こうして過ごせればいいな」
 ぼそりと阿含が呟いた。なんのフィルターもかからず含意のない言葉をきくのは、正直いってかなり辛い。答えたくなかった。だからとりあえず逃げてみる。
「それって1年後だぞ。おまえ同じ相手とそんなに続いたことあるのか」
「あ゛ぁ?」
 弟の発する分厚い威圧感に息苦しさを感じた。しかし視線が絡んだ瞬間それはフッと消え失せて、代わりに揶揄する下世話な声がいつもの調子で返ってくる。
「オニイチャンだって同じでしょ。てか、おれのほうが明らかに経験豊富なワケで」
「数打ちゃ当たるってもんでもないだろう。こっちは一点集中型だから可能性は高いはずだ」
「そりゃなんか勘違いしてるって。夢みすぎ」
「そもそも相手を選ぶ段階でおれのほうが有利だ。おまえの好みには欠陥がある」
「なんだテメェ、人の趣味にまで口だす気かよ」
 本当に優しい弟だった。そして自分は弱かった。この一年で一気に距離が縮まったのは確かだが、にも関わらず問題の基本的な構造が継続しているのに気づき、雲水は愕然とする。結局、ふたりのトラブルなのに雲水は常にひとりで解決をはかろうとしているのだ。決して信頼していないわけではないのに、味方であるはずの阿含に頼ることができない。己を他人にゆだねるということが、どうしてもできない。己の命運くらいは己の意志だけで決定できるような強さを欲しながら、これまで生きてきたからだ。
 突然足元の地面が喪失したような不安を覚え、雲水は阿含にしがみついた。弟にしては珍しい暗い色合いのセーターが頬に触れる。さっきまでは気にならなかったのに急にウールの刺激を感じて痒くなり、ますます強く阿含の身体に顔をこすりつけた。
「雲水?」
 ずっと自立したかった。未成年であることを厭う一般的な意味の自立ではない。生まれたときから傍にいて強烈なひかりを放つ弟、そのひかりに照らされて初めて生じる影のような兄。そう、雲水をひとりの人間ではなく単体では存在できない付属品にまで貶めてしまう双子の片割れから、独立したかったのだ。
 阿含が不審そうな顔をしながらも雲水をきつく抱きしめてくれた。おかげで混乱から少し立ちなおる。そしてなぜ自分は弟を愛しているのかという自問自答をもう一度くりかえした。やはり答えはでないが、少なくとも阿含を好きだという気持ちに偽りはないようだ。ようやく安堵して雲水は肩のちからを抜く。
「どうしたよ。もしかして姫始めのお誘い?」
 ことさら軽い口調で心配を隠しながら弟が瞳を覗きこんできた。雲水の身体はコタツからほとんどはみだしてしまっている。膝立ちで阿含へとにじりより、わずかに逡巡してから全体重をかけてもたれかかった。腕を投げだすようにして阿含の首に絡みつかせ抱きついて、その視線から逃れるのに成功する。無理やり唾を飲みこんで乾いた喉をなんとか潤し、かすれた声を絞りだした。
「うん、お誘い」
 腕の中で阿含の身体が硬直したのがわかった。そのまま互いに黙りこむ。もう何度も寝たことはあるけれども、そういえば雲水のほうから求めたのは初めてかもしれない。途端に沈黙が怖くなった。断られるという可能性に思い至り、それくらいなら前言を撤回してしまおうと息を吸いこんだそのとき、突然の浮遊感に襲われて視界が反転した。一呼吸おいて状況を把握する。阿含に姫だっこされているのだ。
「ちょっ……無茶だろ、おまえ!」
「うっせえ」
 ずかずか和室を横断して足でスパーンとふすまをあける。途中で全身筋肉の塊みたいな雲水の身体が引っかかってコタツの天板が斜めに落下し、古びた年賀状が畳に散らばった。
「コタツ! ヒーター!」
「あとでいい」
 廊下はともかく狭い階段を横抱きで通過するのは不可能だった。阿含は雲水を肩に担ぎなおし、自室へと運びこんでベッドにそっとおろす。そして部屋の灯りをつけてドアに施錠し開けっ放しだったカーテンを引き暖房のスイッチを入れて鞄から潤滑剤をとりだし枕元に置き、準備完了したようである(コンドームを使う気はないらしい)。雲水はすっかり毒気を抜かれてしまっていた。
「あ、阿含……」
「話はあとできいてやる」
 さすがというべき熟練した手つきでみるみるうちに雲水を裸にしていく。
「寒い」
「布団かぶれ」
 阿含も素早く服を脱いで雲水の隣に滑りこんできた。冷えきった寝具の中で互いに身を寄せあう。
「うんすい」
 かつてないほど性急に迫ってくる弟の姿に、雲水は思わず声をあげて笑ってしまった。清濁を問わず全ての感情をストレートに表現できる阿含に純粋な羨望を抱いた。バカな子ほど可愛いとはよくいったものである。
 和室に広がった無数の白い年賀状が脳裏をよぎる。子供らしい稚拙な絵や文字を思い出したくなくて、雲水はずっと目をあけていた。



◆タロットカードでシナリオ作成!レポート

過去 …… 19 "The Sun":太陽(自由・解放・大勝利・率直さ・病気の回復or突然の死)
現在 …… Knight of Wands:力強さ・衝撃・プライド・頑固さ
山場 …… Disks7 "Failure":失敗
未来 …… Princess of Disks:慈悲深い・妊娠・美しさ・浪費
支援 …… Cups8 "Indolence":怠惰
敵対 …… 7 "The Chariot":戦車(記憶・同化吸収・保守派・しぶとさ・相続の争い)

→解放されてプライドを得た主人公は怠惰にすごして失敗し記憶に負け、気持ちが結実した。

 コミックスを読み返す気力がなかったので未確認なのですが、双子が1年のときの秋大会ってどうなったんでしたっけ。関東大会は優勝した……んですよね? クリスマスボウルの結果は? なんとも不明なのでどうとでもとれるような書き方でお茶を濁しておきます。
 ところでリアル世界のクリスマスボウルのTV中継を見逃してしまいました。ショック。Xリーグのライスボウルは絶対に忘れないようにしなきゃ。たしか1月3日の午後2時からNHK教育で生放送のはず……1月3日……1月3日……。
 吉川くんとの顛末中学1年のクリスマスはアップ済みです。




●メルフォ or 拍手コメントへのお返事
>静かな感じの文章で
 おお! そういう感じがするのですね、自分ではわからないものですから。じわじわじわじわ攻めるのは好きです。直接的な言葉を使わないのも好きです。行動に反して内面ではやたら冷めてたりするのは自分がそうだからです。これからもたぶん無意識のうちにこんな感じで書いていくと思いますので、よかったらまたご覧ください。ありがとうございました!
(2005.01.14 追記)

>ゾクゾク萌えました。
 す、すみません、1ヶ月も放置してしまいました。ひっそりお返事追加しますが、読まれておりますでしょうか。コメントありがとうございます、こちらこそ生きる糧です。大好きといってもらえてモニターの前で赤くなったり青くなったり白くなったり狼狽えております。今後も更新していきたいと思いますので、お気に召すかはわかりませんが、どうぞよろしくお願いします。
(2005.02.21 追記)

【 2004.12.30 up 『金剛兄弟書きさんに25(ふたご)のお題』→17:「それが罪だとしても」  無断転載禁止  低温カテシスム 管理人:娃鳥 】  .


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